僕がどうしても曲げられなかった事
筆者、携帯電話の販売員を、辞めました。
この記事は、「僕が販売員を辞めた理由」についてお話しします……と書くと、「おっさんが仕事辞めた話なんかなんで読まなあかんねん」と思われるかもしれないが、内容としては、『携帯電話の販売員の、あるべき姿とは?』という内容です。是非読んで頂きたいです。
販売員を勤められている方であれば、『それは酷い。辞めて当然』と思われる方もいらっしゃるでしょうし、または逆に『そんな事、販売員として当然のこと。何がおかしいのか?』と思われる方も、きっといらっしゃるでしょう。いろんな意見があると思います。
コンプライアンスは守るべきもの
そもそも、『コンプライアンス』とはどういう意味なのか。ウィキペディアの「企業コンプライアンス」の項目には、「企業が法令などを遵守すること」と書かれています。
携帯業界で言えば、『電気通信事業法』『携帯電話不正利用防止法』など、関連する法律があります。携帯電話の不正な販売が行われないように、また、携帯電話を使った犯罪を減らすため、など、いろんな目的により様々な法律が作られています。
法律は、守る事が当たり前。それが原則。少なくとも「僕は」そう思っています。ましてや携帯電話の販売は、契約ごとです。そして大事な個人情報の取り扱いもあります。また、近年では携帯電話やスマートフォンを使った犯罪も急増していますし、転売なども問題になっています。法律=ルールを守るという事は、その場にいない「誰か」をも守るために必要な事だとも思っています。
しかし、その根本を揺るがすような出来事がありました。次の項目から、私の身の回りで起きた出来事をご紹介します。詳細を書きすぎてしまうと会社名などが特定されてしまう可能性があるので、そこは気をつけながらも、なるべく状況が伝わるように書きます。
ある若手販売員の暴走
僕はある家電量販店で携帯電話の販売をしていました。もうその店に勤めて数年。その店で働く同キャリアのスタッフ3人の中では一番のベテランになりました。他のスタッフは、業界経験1年や、1年未満の若いスタッフでした。
仮に、僕をスタッフAとし、経験1年のスタッフをB、一番若い1年未満のスタッフをスタッフCとします。
その量販店では、キャリアの公式のものではない、ある『サービス』の販売をしていました。ショップ、量販店に限らず、例えば「クレジットカード」「保険サービス」「ウォーターサーバー」など、携帯電話と直接関係のない商品を『副商材』として販売するという事は、携帯販売業界でも『よくある事』です。当然私もその販売に取り組んでいました。
しかし、自店の一番若いスタッフCが、急激にそのサービスの販売件数を伸ばし始めたのです。それはその店舗に限らず、系列店舗の地域全体のなかでもトップクラスの販売件数でした。
私もはじめは『すごいなぁ、よく頑張ってるなぁ』と思ってみていましたが、『僕もCのやり方を参考にしよう』と思い、そのスタッフCの販売の様子を横から見ていると、不穏な事に気付きました。
その販売するサービスをお客様にお申し込み頂くには、お客様のスマホから、専用の申し込みページに入り、お客様の個人情報や申込み内容を「お客様で」入力して頂き、申し込みを完了して頂くものでした。もちろん、入力の仕方などをこちらからご案内しながらお客様にご入力して頂くのですが、そのスタッフCは、その個人情報の入力を、『スタッフC自身』が行っていたのです。
お客様のスマホを直接我々販売スタッフが操作する事は、やむを得ない状況を除いて、法令遵守の観点から禁止されています。お客様のスマホを不正に操作して、販売員が不正に利益を得る事も可能だからです。実際、そのような事件が過去にも日本で起きており、逮捕者も出ています。
ましてや、『お客様の個人情報』を入力するなんてもってのほか。事前に本部からも、このサービスの販売において、『入力は必ずお客様ご本人様にご入力して頂くように』と通達が来ていました。私も当然それを守っていましたが、そのスタッフCは自分で入力していたのです。
その理由は明らかでした。
『お客様が自分で入力するのを面倒がるから』
ここだけ見れば、『お客様の代わりに入力してあげる、サービスのいい店員さん』と思われるかもしれません。しかし、このスタッフCの意図としては、
『自分で入力して下さいと言えばお客様が嫌がって申し込んでくれないし、実績が上がらないから、こちらで入力させて頂きますので、と伝えて申し込ませ、実績を上げる』
というものでした。あくまでも目的は、『実績を上げるため』でした。
僕は店舗の携帯コーナー担当の社員様に事情を説明した上で相談し、『自分で入力してもいいんですか?』と聞くと、『それはダメ。コンプライアンスに反する可能性がある』と、その社員様は言いました。そして、『俺からCに言っておく』と、社員様はCに直接注意すると言ってくれました。
しかし、Cのやり方は変わりませんでした。私のようなおっさんから見れば、若気の至りなのか、無鉄砲なのか、Cが『実績を上げる』という目的のため、その、『コンプライアンス違反の可能性がある行為』は、引き続き行われました。
若手の暴走を喜ぶ上司
ある日、その地域の量販店、約10店舗を受け持つ、本部の人、いわゆる「偉い人(以下、Xとします)」が店舗に来ました。
僕は個人的にXに呼び出され、店の片隅でそのXから言われたのは、『他店に行って欲しい』という話でした。
実はその2ヶ月程前にも、僕は『店舗異動』の話を言われていました。その時は僕は『この店で長期間働きたい』と、その異動の話を断っていました。派遣社員だったので派遣会社の担当の方に相談し、担当から断っていただいたのです。
その異動の話をそもそも「発案」していたのは、そのXだったのです。その理由は、『店舗の実績は悪くないが、A個人の実績がよくない』とのことでした。
実はその『X』は、前述の、若手スタッフCがコンプライアンス違反してでも一生懸命売っていた、あの『サービス』に、一番力を入れている人でした。なので、店舗に来るたびにCと嬉しそうに喋っているところをよく見かけました。
そして、別の本部の社員様から聞いたところ、そのXは、『BとCは、仲もいいし、切磋琢磨し合っていて、実績も上がっている。だからAはもういらない』と言っていたといいます。
あくまで『異動』という話だったが、その異動先に指定された店舗は、通勤時間が今の職場の3倍ほどかかる、かなり遠い店舗でした。
『嫌なら辞めろ』という意味なんだと、すぐにわかりました。Aが辞めれば、Aよりもっと都合よく言う事を聞いてくれる新人を入れる事が出来る。それがXの希望だったのです。
その時は断ったものの、僕の異動の話はXの中で燻り続けており、その2ヶ月後、再び、『他の店舗に行って欲しい』という話に繋がったわけです。
この時はあくまでも『とりあえず今回は土日の2日間だけ』ということでしたが、これをきっかけに再び異動の話を始めようとしている事は明白でした。
そして、決定的な一言
僕はもうどうなってもいいと思い、納得行っていない事を正直にXに話しました。
『コンプライアンス違反の可能性のある行為をCがしている。なのにCが評価されている事が納得できない』と。
先輩としては最低かもしれない。しかし、もう我慢できなかった。
コンプライアンス違反というのは、『何かが起きてから』では遅い。C自身に悪意がなかったとしても、もしかしたらお客様の方から「販売員にスマホを勝手に触られた」「個人情報を入力された」などとナンセンスクレームが吹き出てくる可能性もあるのだから。
すると、Xからの返答は、こうだった。
『でも、Cは実績を上げてますよね。Aは実績低いですよね。じゃあ、Aは何も言えないですよね』
僕は「コンプライアンスって、何があっても守るべきものなんじゃないんですか?」と聞いた。
その後のXの答え。それが、僕が「辞めよう」と思った決定的な言葉となった。
『コンプライアンスを破って売上を伸ばしているCと、コンプライアンスを守って売上が上がらないAと、どちらが販売員として上だと思うますか?それはもう明白でしょ?』
『僕の店の実績を上げるために、僕の知らないところでそのような行為をしてくれるなら、僕は嬉しいですけどね』
終わった、と思った。
実は僕は、数年前にも別キャリアでこの店舗で勤めていた事もあり、Xの事はその頃から知っていた。当時Xは、本部の人間ではなくこの店舗の社員で、携帯コーナー担当だった。だからかなり前からXの事は知っていた。
僕の記憶の限りでは、当時のXはこんな人間じゃなかった。店舗の販売員の事を第一に考え、真面目な販売員が働きやすい環境を作ることを第一に考えてくれる人だった。
それがどうだ……しかも、「僕の知らないところで〜」という言葉には、「もしトラブルになったら僕は知らなかった事でその子1人を切れば済む話だし」という意味合いされ、感じ取れたのだ。
僕は次の日、派遣会社の担当に、他の仕事を探してもらう相談をした。
信頼できるお店なのかどうか
この話を聞いて、皆さんはどう思われるでしょうか?特に販売員の方は、きっと『それくらいの事で…』と思われる方のほうが、きっと多いんでしょう。
また、「その人(X)が嫌なら他のところで販売の仕事をすればいい」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、このX氏の発言は、僕を、「店頭の販売の仕事から離れたい」という気持ちに駆り立てたのです。
また、ご利用者の方々からすると、「コンプライアンス違反だろうがなんだろうが、こちらが面倒だと思う事をやってくれるならありがたい」と思われる方のほうが多いでしょう。僕がただ「面倒だからやらない=サービスが悪い」とお思いかもしれません。
ただ、これだけは言えます。
「売れるためならなんでもする」という店は、「売るためならお客様を欺く事もする」という店でもある、という事が多いです。
今まで12年、この仕事をやってきて、いろんな販売員を見てきました。でも、『売れるためならなんでもする。でも、お客様に嘘だけは絶対につかない』という人は見たことがありません。
あくまでも、「そういう販売員」の目的は、「お客様に喜んでいただくこと」ではなく、『売ること=自分たちが喜ぶこと』です。
そんなお店、そんな販売員を、皆様は信じられるでしょうか?
少なくとも僕は、そんな「売れるためなら何をしてもいい」という気持ちを持った事は、一度もありません。
そんな僕が、「店にいらない」と言われてしまいました。
何度も言いますが、『物を売るという事はそういうものだ』と言われてしまえばそれまでです。でも、いや、だからこそ僕はこの仕事を辞めました。綺麗事だと言われても仕方ないと思います。
『じゃあお前はルール違反やコンプライアンス違反をした事が一度もないのか?』と聞かれたら、それは正直即答できません。例えば、必要な書類の読み込みを不意に忘れてしまったとか、ルールを知らずにルールに反することをしてしまったとか、知らないうちにしてしまった事は、あるかもしれません。
しかし、『自分の利得のためにコンプライアンス違反してやろう』と、悪意と策略を持って行ったことは、絶対ありません。
それとこれとは、ぜんぜん違うと思うんです。
この記事の最後に
結局、愚痴がほとんどの記事になってしまいました…。
今後も、「過去の経験談」等として、このブログは記事を追加していこうと思っています。